「地方エンジニア」スライドの所感
なかなか興味深いスライドだったので、オッサンから幾つか所感を。
地方エンジニアと言う言葉の本当の意味は「地方企業向けに活躍できるエンジニアの不在」
先のプレゼン資料では、「地方エンジニア」を地方在住のエンジニアと定義されてましたが、元のITProの指す「地方エンジニア」は、地方企業向けに活躍できるエンジニアが不在で、首都圏や京阪圏などの都市圏のIT企業に対して技術提供を行えるエンジニアが集中してるってことなんです。
この問題の根が深いところは、都市圏の企業で着実に進められている業務のIT化に地方企業が追いつけ無いこと。
中小企業も多く業務のIT化を行う意欲が少ない、サプライチェーンがシステム化されておらず、一社だけのシステム導入が困難など、費用対効果の少なさから需要が少ない状況下で、IT関連の仕事が都市圏の大企業を中心に集中、結果エンジニアも需要がある都市圏に集中し、地方企業を相手できるエンジニア減少とスキル減が生じてしまう問題です。*1
結果、IT化、システム化により都市圏の企業はますます有利となり、地方企業を圧迫することとなるスパイラルが発生するわけです。
てなわけで、地方在住のエンジニアが都市圏の仕事を受けたら、本来の意味での地方エンジニアではなく、地方に在住する都会エンジニアとなってしまうので注意が必要。
重要な事は、エンジニアがどこにいるか、ではなくエンジニアがどこに価値を提供するか、ですね。
そういった意味では、地方のIT化を促進する地方エンジニアの話がなかったのはちょっと残念です。
地方エンジニアの仕事上の課題
さて、元スライドの地方エンジニア(正確には在宅勤務ですが。。。)ですが、いくつか課題が考えられます。
①セキュリティ問題
昨今の在宅勤務を行う上での最大の問題です。地方エンジニアの場合、依頼元からの距離も離れていることもあり、物理的なセキュリティ対策度合いが低下いたします(要は、オフィスの玄関という防御がない)。
セキュリティも標準化されず、依頼先のリテラシに頼る部分も大きい。
このため、個人情報を含む重要な顧客データを触ることもできず、依頼元は顧客情報をメールなどでも渡すことに注意を払う必要があります。
ソースコードなど知的資産の流出の問題もあります。
つまり、仕事を依頼する上での見えないコストが増加し、ハードルが上がってしまうわけですね。
個人情報保護法や、情報流出に対するマスコミや世論などの批判もあり、企業は情報流出に非常にセンシティブになってます。
このセキュリティ問題の壁は、どんなに優秀なエンジニアであっても仕事を依頼するのに躊躇する大きな壁となってます。
②オフショアの台頭
さて、セキュリティが改善されたあとに問題になるのは、オフショアの台頭です。
中国やベトナム、インドなどのオフショアは非常に優秀な人材も多く、コストも日本人エンジニアよりはるかに安いです。
このため、ソフトウェア開発に絞ってみると、遠隔地開発が可能なスキルが有る企業の場合、地方のエンジニアに仕事を依頼するより、オフショアに依頼したほうが費用面では安く済むのが実情です。
ここが、遠隔地開発のムズカシイところで、日本国内で距離が離れた開発ができるのであれば、当然日本国外まで足を伸ばしても対応できることがほとんど。なので、遠隔地開発はコスト勝負になりがちだったりします。
※追記
似たようなことがひろゆき氏にも言及されてました。
予測と希望をごっちゃにすること。 : ひろゆき@オープンSNS
まあ、この手の問題は考えることは皆一緒ですね
③営業力の低下
さて、オフシェアに勝てるだけの開発力を持っていたとします。
さらなる問題としては、営業力の低下です。
一番最初に記載した通り、IT需要地はもっぱら都市圏となります。このため、新たな仕事を得ようとした場合、都市圏の仕事を取らざるを得ないことがあるのですが、移動などで当然営業コストがかかることとなります。
となると、都市圏エージェントを設けたり、ウェブなどで仕事を募集することが必要だったり。ますますコスト面で不利になってしまいます。例えば人づての仕事の依頼なども考えられるのですけど、絶対量が少なく、安定してないなどの課題もあります。
安定して仕事を受け続けられるのはほんの一握りでしょう。
だれだって、見知らぬ他人よりから見知った他人に仕事をお願いしたくなりますので。。。
上記の課題は、遠隔地で仕事を行う上での最大の問題点です。故に、システム開発を行う会社が都市部に集中してきた過去があります。
では、地方に住むエンジニアはどうすれば良い?
とまあ、課題をあげてみましたが、ダメダメ言っていても生産的では無いので、どうすれば解消できるのか、も考えてみたいです。
成功事例を参考にする。(ライターやデザイナ)
前述の、①~③の事例を解消して地方勤務を成功させた例としてよく聞くのは「ライター」や「デザイナー」ですね。
ライターやデザイナーの仕事は、セキュリティ上問題となるような個人情報などを得ることなく出来ます。オフシェアではこれらの分野にタッチできません。営業面についても比較的人づてで仕事を得ることが多いです。
そういった面から、ランサーズ [Lancers] - 仕事をフリーランスに発注できるクラウドソーシングなどを見ても、圧倒的にデザインやコピーライティングの仕事が圧倒的に多いです。
今後も、地方で勤務するにあたっての大きな力になるかと思いますが。。。当然日本人同士の競争も熾烈です。
開発ではなく、技術知見の提供を中心とした仕事を請け負う
新技術の技術評価を行い、各企業に技術指導を行うなどの方法も考えられます。
他人の仕事を代行するのではなく、自分の持つスキルの切り売りですね。
これであれば、セキュリティ問題やオフショア台頭にも対抗できます。
必然的に名が売れるため、営業面でも苦労しないかと思います。
もちろん、都市圏などのエンジニアにも対抗しなければならず、ずば抜けた技術力が必要です。。。継続して技術力向上も必要であり、それなりに力がないエンジニアでは対応はムズカシイですね。。。
ニッチな仕事の請負を行うゆるふわ合名企業
営業や顧客対応、案件調整などマネジメント企業を都市部を中心に行う専門家と、大多数の開発を行う地方エンジニアで構成される集団を作り、カンタンなウェブサイト作成や、アプリ開発など、1~2MM未満の軽量小型の案件を中心にニッチな開発を拾っていく事が考えられます。
いわゆる合名企業ですね。遠隔地開発なので関係はゆるふわです。
要は、個人仕事になりがちな小規模開発であれば、オフショア等に依頼が取られることも少なく、営業の専門家を設けることで、営業力低下をカバーできます。セキュリティリスクについては、合名企業として契約を結ぶことで、一種の保険をかけ信頼をえる様にいたします。
ただ、この場合問題になるのは構成メンバー間の信頼です。誰かがバックレたりした場合は皆が等しく責任を負うハメになりますから。如何に皆を信頼し、裏切らない様に仕事を出来るか、が勝負です。
まとめ
色々書きましたが、地方エンジニアの活躍を難しくしているのは、昨今の個人情報意識の高まりや、地方への仕事からグローバルな仕事に既に移ってしまったIT業界特有の事情があるかと思います。
実は、オッサンが一番やるべきだなと思っているのは、一番最初に掲げたような「地方企業のIT活性化」を地方エンジニアはやってほしいなと思ってます。
地方で開発するためにはどうすればいいか、から、地方を良くするためにITをどう活用するか、そのためにはエンジニア力をどのように活用できるか、そういった広い知見を持ったエンジニアこそが、真の地方エンジニアかなって。
これならば、距離や立地等が問題とはなりませんしね。
オッサンエラソーなこと言ってますが、自分ではできないので、地方を変えようとする人はすべからく尊敬できますね。
以上
*1:丁度いい参考資料を発見:http://www.ipa.go.jp/files/000023618.pdf