プロマネブログ

とあるSIerでプロマネやっているオッサンです。主にシステム開発ネタや仕事ネタ、気になった三面記事ネタの解説なんかしてたりします。

多重派遣への問題意識は理解できるけど、ちょっと現状認識と方向性に問題あるのでは。。。

記者の眼 - 多重下請けは本当に必要悪なのか──ポジティブな改善策を考えてみる:ITpro

オッサンもよく見ているITPro。正直、上流工程関連の記事が微妙なことが多く、いつも突っ込みどころネタとして重宝しているのですが、今回も微妙なポイントがあったので、ちょっと記載を。。。

 

大規模プロジェクト経験者のスキルレベルは大丈夫だろうか?

元記事の内容ですが。。。

 大規模なシステム開発プロジェクトを立ち上げる際、必要なスキルセットを備えるIT技術者を素早く、大量に調達する仕組みとして、全国に張り巡らされた多重下請けネットワークは恐ろしく効率が良い。

 

今回、取材した大規模プロジェクト経験者は、「下請けネットワークを辿り、9次請けまで辿って、ようやく求める業務知識やスキルを備えた人材に巡り会うこともある。このネットワークなしには、適切な人材にアクセスするのは難しい」と語る。

 

。。。どんな大規模プロジェクト経験者、ですか。

大規模プロジェクト経験者の方が元請けと想定しますが、仮に上記コメントが正確とすれば、かなりの問題発言です。

 

オッサン、丁度この前に見積もりの記事*1を書きましたが、プロマネを担当する元請けが正しい業務知識をもってなれば、要件を整理できず、正しく見積もできません。当然、要員計画などもできないでしょう。9次請けに求めた業務知識も内容次第ですが、それ以前に元請けとしての業務知識も厳しそうです。。。

となれば、当該インタビューでの多重下請け構造の問題は、当該の「大規模プロジェクト経験者を含んだ元請け」のプロマネスキル/業務要件分析能力にありそうなことは自ずと見て取れます。IT業界の共通した病理と言われると些か大げさな印象です。

 

※そういった意味では、別記事のインタビュー(ITベンダーは「体力勝負」から「頭の勝負」への転換を急げ---情報サービス産業協会(JISA)副会長横塚 裕志氏:ITpro)ではプロマネ技術が低いことが指摘されてました。こっちのほうがまだ正確かなあ。 

 

IT業界における派遣と請負との関係については、正直長くなりそうなので別記事にまとめようかと思います。

 

オフショアがいまいち忘れられた全体観

元記事は、日本国内の多重派遣が問題視されてますが、大手SIerでは2000年以降、一貫してオフショア開発比重を高めてきた現状があります。

 

ガートナー | プレス・リリース | 日本企業によるオフショアリング金額規模、2009年は3,590億円に

 

ちょっと古いのですが、Gartnerの発表にあるように2006年の偽装派遣問題発覚以降、最盛期の2008年にはおよそ2倍までオフシェア開発比率を増加させてます。

大手SIerでは、そもそも費用が高く、偽装派遣が問題となる日本人エンジニアを派遣で利用するよりか、請負制度をきっちり対応して、オフショアに仕事を回したほうが安くて手っ取り早いって状況になりつつあるわけです。

 

となった時、元記事のコメント

前述のプロジェクト経験者は「リーマンショック以降、多重下請けを必要とする大規模プロジェクトがしばらく途絶えていただけ」と手厳しい。 

 は正直微妙。そもそも、多重下請を行う日本人エンジニア比率が一貫して低下し続けたと見るのが妥当です。

事実Gartnerの発表中のグラフにある通り、リーマンショックの時も、利益を最大化するため、日本人エンジニア比率を下げ、オフショア開発比率を一定にとどめた実績がありますしね。。。

 

※ただ、中小SIerのオフショア比率の資料がなかったので、もしかしたら大手SIerだけかもしれませんけど。。。中小ではまだまだオフショア比率は低いのでしょうか。。。

 

 

てなわけで、上記に幾つか上げた通り、大手SIerと多重派遣の関連はオッサンの知る限りでも相当薄れてますし、元記事にあるような問題については、現場の肌感として違和感を感じます。

 

ベンダロックイン推奨記事?

まあ、ここまではインタビューした人物が微妙で済むって話で、まあ、そういうふうに外の人は見てるよねって話かなと思いました。

(商売のためにも、マスコミは自分の望む通りのステレオタイプの記事を作るのが通例ですし)

 

ただ、元記事から紹介された以下の記事にノックアウトされてしまったので追記を。

 

「納品のないIT受託」という新モデルを広めたい---ソニックガーデン 代表取締役社長 CEO倉貫 義人氏:ITpro

 

関連記事で上がったソニックガーデンの記事です。

今回、同社に対して行われたインタビュー中に気になるコメントがありました。

顧客企業に対しては、1カ月の試用期間を経て、1カ月単位で契約します。顧客が契約を打ち切った段階で、システム自体が利用できなくなります。とはいえ、ほとんどの顧客とは長期的にお付き合いできています。

 

う~ん、以前*2、オッサンが問題点を危惧していた通り、ベンダロックインを戦略的に行っているんですね。。。

 

正直、恐ろしいです。

 

ベンダロックインが発生すると、最悪システムを人質に高騰した運用費用を奪われる恐れがあります。ユーザ側の対抗措置が取りづらいからです。

また、システム開発がクローズ化され、競争にさらされず、改善のモチベーションが生まれずに陳腐化の恐れもあります。

故に、ベンダロックインが発生しないよう、「納品」という考え方が生まれました。

 

こういったベンダロックインを行います!なんて危険なコメントをさらりと引き出すとは。。。この記者さん、狙っていたらかなりの策士ですね。

 

※他にも、作成したアプリケーションの知的財産権なども気になる記事でしたが、契約を見たわけではなく憶測の指摘になりそうなので、ここでは除外します。

 

まとめ

今回の記事、多重下請けの問題点をスタートに、ポジティブな改善案の先には、ベンダロックインがゴールとなっている素晴らしい作りでした。

IT業界は、食うか食われるかの修羅の世界。元請けの適当なプロマネで派遣として食われたくなければ、ユーザを食ってしまえってことですかね。

 

この記事だけ見ると、日本のIT業界は終わっているな~って印象受けますね。。。

 

 

まあ、今回の記事は構成が微妙なものの、上流工程やプロマネ技術に問題が度々見られる点は同意です。この点についてはオッサンも周囲を巻き込んで改善していきたいなとは思います。

 

 

以上