プロマネブログ

とあるSIerでプロマネやっているオッサンです。主にシステム開発ネタや仕事ネタ、気になった三面記事ネタの解説なんかしてたりします。

日本のIT業界を「SIガラパゴス」と言う前に知っておきたい海外ベンダ事情

木村岳史の極言暴論! - SIガラパゴス、多重下請け構造の終焉の始まり:ITpro

 

 クラウドだ、オフショアだ細かい端々の間違いを指摘してたら、自分の書いていた過去記事とほとんどおんなじ内容になってしまったので、たまには趣向を変えて見ようかなと。

※元記事の問題提起がワンパターン過ぎて。。。

 

そもそも、日本のSIerってガラパゴスと呼ばれるほど特殊なのか、について。

 

世界のシステム開発ベンダ

IPA 独立行政法人 情報処理推進機構:IT人材育成事業:IT人材白書

 

世界のベンダ事情を調査した素晴らしいレポートなので一読あれ。

非常に長い内容なので、かいつまんでまとめます。

 

米国

ウェブサービス企業などのイノベーティブなハイエンドサービスを提供するIT企業は内製化。それ以外の非IT業種で、金融機関、連邦政府などIT部門が強い業種では、マネジメントやIT戦略部門を内製化、開発はベンダ(IBMなど)からソフトウェア製品を購入したり外注開発したり。非IT企業でITが戦略的でない企業*1や、中堅以下の企業については日本とほぼ同じでITベンダにほぼ全工程を依頼。一時的な技術者需要には、IT技術者をプロジェクト単位の有期契約を結んで要員確保することも。

ちなみに、開発自体は今もウォーターフォールを過半数利用中(まあ、システム規模もでかいし。。。)。

 

中国

中国でも、IT企業は自社サービスは内製で作ることもあり。非IT企業では、日本と同じでベンダ依存の外注が主流。米国同様、一時的な技術者需要には、IT技術者をプロジェクト単位の有期契約を結んで要員確保することも。開発力はだいぶ向上してきたが、エンタープライズアーキテクチャなど上流設計はまだまだ弱い部分もある。パッケージ好き。

オフショア開発しているのでソフトウェア輸出も多いけど、内需も多く、インドほど輸出依存ではない。

 

インド

ほとんどは大規模ベンダの独擅場。オフショア開発拠点として盛んなソフトウェア輸出。米国同様、一時的な技術者需要には、IT技術者をプロジェクト単位の有期契約を結んで要員確保することも。

 

ベトナム

ユーザ企業とベンダーでほぼ半々の技術者割合となっている。オフショア拠点としてのソフトウェア輸出も盛ん。

あまり技術者の有期雇用は行わない。

 

韓国

財閥系内のユーザ系SIによる受託が盛ん。要は、日本のIT子会社みたいな形でグループ内外注で開発している。日本と同様、スクラッチ開発好き。

一時的な技術者需要には、日本と同じでIT技術者派遣などで対応する。

日本と同じで、ユーザ系ベンダー → 海外パートナー みたいな形で多重構造あり。

 

ロシア

欧米のパッケージ開発拠点。国内向けの開発については、ユーザ企業がIBM等のメガベンダーに依頼、ロシア内一次請け、旧ソ連諸国へ再委託みたいな開発が行われる。あまり日本と変わらない。米国同様、政府機関、金融サービスなどでは仕様策定をユーザ企業が内製で行うこともある。それ以外は大体ベンダにおまかせ。

 

アイルランド

ユーザ企業の内製および内国ITベンダ開発は少なく、開発力が高い多国籍ベンダーに外注がほとんど。IBM強し。多国籍ベンダのオフショア拠点となっている。最もパッケージ利用が盛ん。

 

デンマーク

ユーザ企業は、プロジェクトマネジメントやIT戦略など、IT部門による内製化を行いつつも、開発はIBMやHP等の多国籍ベンダ、国内ITベンダへの外注で行われる。

日本みたいな自国の大手ベンダは存在せず、大手多国籍ベンダと中小内国ベンダがベンダ構成の主体。内国ベンダは、日本のベンダと同様にユーザ企業の仕様策定から密接に関わるようにしている。

米国と同様、内国でのプログラミングはハイエンドなイノベーション分野に限られ、専門スキルを持った人材により行われる。一般的な開発は、オフショアを活用。

 

フィンランド

ITアウトソーシングによる外注での開発が盛んなものの、日本のような下請構造はない。メイン部分を多国籍ベンダが開発、周辺の細かいカスタマイズを内国の小規模ベンダが担当するみたいな感じの役割分担がある。IT市場は飽和状態でTieto社などの有力ベンダによる寡占状態。仕様が不安定な最先端技術よりも、安定して生産性の高いちょっと枯れたぐらいの技術を採用する傾向があり。テストはニアショア、オフショアを活用した再委託で行われたりする。Nokiaなど通信企業はIT部門の役割強し。

ちなみに、Tieto社の次点ベンダーは富士通

 

 

元レポートにない国(その他アジア系)についても調査したことありますが、多国籍ベンダーが強かったり、内国ベンダーが圧倒していたりとやっぱり国によって違ってましたね。

 

まとめ

とまあ、いろいろ各国のシステム開発事情をまとめてみましたが、日本のIT業界構造はガラパゴスと呼ばれるほど特別なもんじゃあないです。

 

日本や韓国のようにベンダの階層構造があったり、スクラッチ開発好きだったり。

アイルランドやインド、中国みたいなオフショア拠点以外ではオフショア活用が盛んだったり。

日本、韓国、フィンランド、インドのように内国ベンダが頑張っているところもあれば、アイルランドみたいに多国籍ベンダーばかりのところも。

アメリカの大企業やデンマークの様にユーザ企業のIT部門が頑張っているところもある反面、ベンダおまかせの国も多い。

 

ユーザ企業がベンダよりもはるかに多数のIT技術者を雇用しているのはアメリカぐらい。それ以外の国では、同数ないしはベンダのほうが多数だったりします。

まあ、アメリカはIT業界に関しては特に独自路線が強い部分がありますので、ある種アメリカのほうがガラパゴスっていうのが正解かもしれません。

 

 

各国それぞれ国事情に合わせて、IT業界の構造が違ってます。

そんな感じの各国の業界事情を知っていたら

 世界で類を見ない日本SIビジネス、そしてそれを支えるIT業界の多重下請け構造を「SIガラパゴス」と名付けて、その問題点を指摘してきた

なんていうのは、ちょっと飛躍しすぎかな。

 

まあ、アメリカ以外にも様々なIT事情があるので、日本との違いを広く見比べたほうがより良い業界分析をできるんじゃあないかな、なんて思います

 

追記

アメリカの過去の多重下請構造について追加記事を書きました

米国IT業界に過去あった多重下請構造、それが破壊された理由 - プロマネブログ

 

 

以上

 

 

最新 業界の常識 よくわかる情報システム&IT業界 (最新“業界の常識”)

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*1:参考:McFarlane IT Portfolio分析の学習メモ - プロマネブログ のFactoryに位置するITサービス