プロマネブログ

とあるSIerでプロマネやっているオッサンです。主にシステム開発ネタや仕事ネタ、気になった三面記事ネタの解説なんかしてたりします。

システムは「人間」が使うということを甘く見るべからず

 

極言暴論スペシャル! - SI亡国論(その2)- 日本企業のイノベーションを20年遅れにした罪:ITpro

 

前回*1に引き続き。

 

「日経」記者のSIerビジネス知識の欠如

ITProはいちおう日経系列なので、そこで働く記者も一般レベルのビジネス知識を持っているかと思いたいのですが。。。

 

例えばERP導入。本来なら可能な限りノンカスタマイズで導入したほうがユーザー企業の経営に資するのだが、IT部門事業部門の個別要求に抗せず、アドオンの量を膨らませてしまう。そしてITベンダーにとっては、そのほうが開発量が増えて儲かる。しかも、その後の保守も膨大なものになり、それを請け負うことでさらに儲けることができた。 

スクラッチで開発したシステムなら、なおのことだ。

 

上記文章。これを日経記者が書いちゃうのか。。。これでよくITビジネスを語れるなあ。

 

うちもそうだけど、大体のSIer、特に元請やっているような企業の有報見ると、しばし「不採算案件の発生による収益減」なんて文言があちこちで見られます。

ぶっちゃけて言えば、受託開発案件で炎上など起こしてしまうと、仕事は完了しないのに再委託のパートナーさんを雇用しなければならず費用が膨れ上がる、要は赤字化してしまいます。

なので、会社によっては微妙に戦略が違いますけど、大体の方針として極力パッケージやASPなどへノンカスタマイズで導入しようとしているんですね。

事業説明資料などでも「自社のパッケージ販売の拡大」や「自社サービスへの誘導」、「SAPの販売拡大」みたいな感じで書いてあることもしばしば。

同じ問題解決を行うのであれば、低リスクな道を選ぶようにするのが当然ですがな。

 

業界を語りたいと思うのなら、決算資料を見るなんて常識中の常識なのに。

まかりなりにも日経に関係している記者が読んでないとは思いたくないのですが。。。どうだろ。

 

システムは「人間」が使うということを甘く見るべからず

ERPを徹底的にカスタマイズして導入した、ある大手製造業の経営者が「ITコストが膨らみ、まるでERPのために仕事をしているようなものだ」と嘆いていた

 

なるほど。製造業ではEPRをカスタマイズ導入してコストがかかってしまったと。

では、ノンカスタマイズで「大手」製造業に対応できるERPは存在しているのでしょうか?過分に耳にしたことはありません。

では、業務ギャップが存在するERPをノンカスタマイズで導入した場合、当然オペレーションコストが発生するわけですが、それとITコストを比較した場合の金額差は?多分、KPIは取られてないんじゃないかな。

 

ITコストは金額として見える反面、カスタマイズも何もしなかった場合のオペレーションコストの増加分は、きちんと計測しなければ見えない。なので、人間のコストを甘く見積もる傾向があるんですね。

で、きちんとシステム投資すれば解決できるようなことでも、デフレ環境下では人間のコストの方が安そうに見えるもんだから、ERPをノンカスタマイズ導入し力技の長時間労働で対応しようとして結果、現場が疲弊するなんて事例はいくらでも散見されます。

 

上記の事例を示唆する話があります。

世界でもトップを取るような日本企業の業務を分析し、米国対応パッケージとして開発したシステムを米国に導入しようとした事例の話。

米国会計基準ヤード・ポンド法など、アメリカで導入するために必要となる標準化を行いいざシステムを導入したものの、結局米国側でフルスクラッチシステム開発となってしまいました。当然、コストはかさんでしまうわけです。

 

合理的なはずのアメリカ人がなぜ?

 

実は、ほんの些細な日米の商習慣のずれを利用者が感じてしまい、業務効率が上がらないと判断したことが原因だったりします。

 

アメリカ人だって、自分らの商習慣に合わなければ、どんなに優れた業務ノウハウがつめ込まれたパッケージであれ、当たり前のように使わない選択を選びます。日本企業がスクラッチを選んでしまうように。

 

なんでもかんでも標準化すれば良いなんていうのは、人間を無視した暴論としか言いようがないです。

 

業務の標準化に欠かせない法と自主規制団体の存在 

 

欧米のユーザー企業の多くは20年ほどの歳月をかけて、ERPなどを活用して業務改革を進め、業務プロセスの標準化を成し遂げている。これにより単に業務の効率化を極大化させただけでなく、経営の見える化もほぼ達成した。さらに中国など新興国の企業もERPをほぼノンカスタマイズで導入することで、一気に欧米流の効率経営を手に入れつつある。

 

OK。そのように語るのであれば、ぜひとも日本の企業が欧米の商習慣を導入することで経営効率化できることを示していただきたい。

当たり前ですが、1社だけ導入しても生産性は上がりっこない。貿易などで先進国との取引が多い中国のような新興国企業なら、個社で導入しても取引先の多くが海外であれば、さほど苦労なく生産性を高めることができます。

 

日本のような経済がそれなりに大規模な物となった国では、国内の取引も活発です。

となれば、社内業務の標準化を行うためにも、取引先を含めて商習慣の標準化を行わなければなりません。

 

 

意外と知られてないのですけど、日本でも特にERP等のパッケージが導入され、システムが高度に標準化された業界があります。

 

メガバンクを除いた地銀、証券、損保といった金融業界です。

 

これらの業界では、共同利用型のASPSaaS)やパッケージの利用率が高く、おおよそ5~9割近くの企業が、標準化された業務システムを利用するようになってます。

日本のパッケージ利用率が1割以下であることを考えれば、驚異的な数字です。

 

前述した業界は、所謂「規制産業」です。商取引や業務内容などは法律によって厳しく制限されてます。

なので、各社の業務内容は同一とならざるを得ない(工夫のしようがない)ため、自然とASPやパッケージを利用すると言った選択を選んだ形になったわけです。

 

 

1ユーザ企業の業務システムを標準化したくても、その先の業界全てを標準化することには不可能です。となれば、無理に標準化を行ってしまうとかえって効率が低下してしまう。このような状況下で、効率低下を覚悟でシステムの標準化をユーザ企業が選択することは厳しいでしょう。

 

結局のところ、こういった標準化というのは、業界団体や法といった政治の世界の話。

 

それを行わないのはSIerが悪いというのは、まさに暴論。 

 

 

まとめ

今回の話は、もう言ってしまえばSIerに関係ない話をSIerが悪いと入っているような話、ユーザ企業がどうしようもない部分をユーザ企業の責任というばかりで、いちゃもんとしか言いようが無いレベルです。

 

こういう話って、普通は何も知らない素人が思いつきで語る話であり、IT関連のメディアがきちんと分析した説明を語るってのが正常な世界じゃあ無いのかな。

でなきゃ、IT業界に潜む問題を解決できないどころか、問題を深化させるだけでしょう。

 

「SI亡国論」なんて話ではなく「IT関連メディア亡国論」じゃないのか、と。

 

もう一つの記事*2に対しても、指摘を書こうと思いましたがもう体力の限界なので今日はここまで。

 

以上