「人月問題」や「多重請負」は「害悪の原因」ではなく結果
上記の45の弊害。どれも微妙に指摘できそうな内容ばかり。。。ちょっとばかり検証してみますか。
害毒として挙げられている事項について検証
45の害毒それぞれ微妙に突っ込みどころがあるので、個々解説を書こうと思ったら、半分ぐらい書いた段階で既に5000文字を突破てしまいました。。。
もうやめやめ。こんな長文誰が読むんだい。
というわけで、代表例を幾つかピックアップして指摘。
因果関係が逆転
1.労働集約型産業のままで知識集約型産業に脱皮できない
逆逆。主力である「受託開発」が労働集約的な仕事だから、労働力に応じた収益となるため人月商売や多重下請が発生するんですよ。害悪、ではなく原因。
他にも、「6.いつまでも手工業、システム開発の工業化が進まない」も同じです。受託開発で、ユーザごとに業務要件、システム要件が違うがため、工業化が進まないわけで。で、工業化が進まないから、力技に頼るがため、多重請負になるわけで。。。
原因と結果を逆転しても、何の問題提起にもなりません。
一般論のすり替え
21.不況時に多くの技術者が失業の危機に直面する
「多重請負」していないとされるアメリカも、不況時には10万人単位でレイオフされてます。2000年初頭のITバブルはじけた時のこと、もう忘れたのですかいな。
シリコンバレーのIT企業に吹き荒れるレイオフの嵐(1/2):企業のIT・経営・ビジネスをつなぐ情報サイト EnterpriseZine (EZ)
ココラヘンは、労働需要と雇用の関係で、別に多重請負とは関係ない一般論をさも多重請負の問題点としてすり替えているだけです。こういうストローマン的な詭弁は関心しないなあ。かえって、多重請負の方が、プロジェクト間での要員調整を容易にしやすいことから、失業の防止弁となっているなんていう話もあるわけで。
他にも一般論とのすり替えとして、商流の問題である「3.SIerを頂点とした明確な“格差社会”が存在する」、プロジェクトマネジメントの問題である「20.定期的に発生する失敗プロジェクトでデスマーチとなる」などなど。
ユーザの問題のすり替え
27.システムで余計な機能も作り、ユーザー企業の無駄なプロセスを温存
これと、「13.「言われた通り何でも作る」という御用聞き営業が蔓延」を組合せてみればわかりますが、要は「ユーザの過剰な要求に応えている」ということを害悪としているわけです。でも、これをベンダの責任というのはただのユーザ問題のすり替え。てか、多重請負関係ないじゃん。。。
たしかに、ユーザが無駄なプロセスを作るのは、ユーザにとってもためにならないし、オッサンも要件定義等の際には「このプロセスは省力化できるような作りにしましょう」なんて提案することあります。
ただ、あくまでベンダができるのは提案まで。最終決定はユーザの責任以外に他なりません。
これって、「大盛りサービスだからって食べ過ぎて太ってしまった。賠償しろ」って言っているようなもんじゃあないですか。。。言いがかりにもホドがある。
同じような話は「28」「29」「31」などもそう。
てか「32」なんてひどい話。ユーザはITにより新たなビジネスを生み出すために仕事を依頼しているわけで、ユーザに吸い取られるって。。。お金を出してくれるユーザのIT投資全否定してどうするの。全ての投資活動、BtoBの仕事を否定しているようなもんです。
それは害悪ではない。。。
一番最初に「ITベンダーの経営幹部をはじめ関係者も「何とかしなければ」と思うだろう。」と書いているわけなんですけど、多分、この話をITベンダの上役が聞いたら大喜びします。
ITベンダの目標は、より上流工程の仕事を勝ち取ること。顧客のIT戦略に深くコミットすることで高い付加価値を出すことです。
これは、世界中のITベンダでは結構常識的な戦略です。欧州ではそうやってITベンダが、顧客のIT戦略に密接に関わろうとしてます。*1
また、ユーザ企業の戦略としてITOを積極的に進めている事情もあります。特に、非IT企業であれば、本来のコア事業に集中することでより高い付加価値を出せるってこともあるため、戦略的なITO/BPOを活用する事例も多い。
これは、ただの利害の問題ですね。
他にも「41.経営がリスクを取ることに不慣れ」なんかも、リスク志向は経営戦略の問題なので、不慣れだからって問題にならない場合もありますよ。低リスクで安定した収益を稼げるってことだって、立派な価値として評価される場合もあります。
ITproの記事との矛盾が。。。
あれ?過去ITProの記事で、「事業部門がITベンダに直接依頼」とかって書いてたような気が。。。
IT部門のイメージは「抵抗勢力」:日経コンピュータDigital
まあ、何年も前から事業部門からの直接的な仕事の依頼、多いですよね。こんなんもうとっくの昔の話と思ってましたが。。。
自ら記述した記事と反する問題点を上げるってのは、間の抜けた話です。
・・・・
っと、ちょっと書きすぎました。
上記のような要領でツッコミを書いていたら、あっという間に長文の出来上がりなのでこのぐらいまでにしておきましょう。
確かに、いくつかの事項については、「人月商売」「多重請負」の害悪として間違いない、というのもありました。
「人月商売」の害悪は、「36.技術者数で売り上げが決まり、成長が難しい」。これは間違いないです。再委託先ベンダを見ると、確かに技術者稼働率が重要目標としているベンダもたしかにあります。人月商売は安定的で低リスクな反面、スケールが効きづらいのは間違いないです。
「多重請負」の害悪は、ここには書いてないですけど「委託横流しによる利益中抜き」が問題じゃないんですかね。つまり、エンジニアへのフリーライド。
余談)出版業界は外れてばっかりの他業界分析よりも、自己分析が先では
上記の通り、今回の記事は題名に偽りあり、と言ってもいいようなぐらい、過半数が人月商売や請負の問題に関係ない内容ばかりでした。45個も頑張って挙げようとしたのはわかりますが、もうちょっと落ち着いて分析しなさい、と言いたいぐらい。
そもそも論として、この手の話は10年、15年前から繰り返されているわけですが、本当に問題であれば、何らかの弊害が出ていてとっくにおかしくない。にも関わらず、毎年のように同じ話を繰り返している。であれば、演繹のロジックなり、前提なりが間違っていることを疑うべきでしょう。
そういった指摘として、真っ当に業界にいる人間として、
「極言暴論」の読者にも「以前に何度も聞いた話」とシニカルに受け止められてしまったりする。「このままでは日本のIT業界に未来は無い」と叫んだところで、「またですか」とオオカミ少年扱い。
という反応が出てもおかしくない。岡目八目って言葉もありますが、こんだけ大きくなった市場で傍から見える情報は限界がある。一般的に考えれば業界の中の人のほうが情報も多いし、正確な認識も持てそうなもんで、業界人の指摘については一考の余地があると考えてもいいと思うんですよね。でも自説を疑うどころか、
“ゆでガエル”状態になっている人には、湯の温度が多少上がったぐらいでは危機感を持って受け止めてはもらえない。
と指摘者をゆでガエル扱いする有り様。今の今まで外れ続けてきたのに、どんだけ傲慢なんだと。
ぶっちゃけ、メディア業界の人って顧客や他の業界をきちんと見てないし、分析もいまいちですよね。何が何でも自説が正しい。だから、取材とかだってシナリオありきの取材をしたりして、取材先とトラブルになったりもする。問題を指摘されたってへっちゃら。むしろ、指摘者を「自説を理解しない愚か者」扱いする。
外れてばっかりのIT業界の問題点を指摘してないで、出版業界の問題点をきちんと分析できるようになったほうがいいんじゃないかなあ。いや、10年15年間外れ続けてきた同じことを言い続けていたり、自分の頭のハエもろくに追うことができないのに、上から目線で他業界を語っていたりするのってよっぽど"ゆでガエル"状態なんじゃあないかな。。。
まとめ
この前のpaizaへの指摘*2の際にも同じこと書いたんですけど、人月商売や多重請負って「受託開発」ってビジネスモデルの結果であって、原因じゃあ無いと思います。
で、これまた「受託開発」はユーザ要求が原因であるわけで。。。
ユーザ企業にだって言い分はあり、「パッケージが機能で過不足があり業務に支障がある」とか、「新規業務のための革新的なサービスを作りたい」なんてニーズがあるから、受託開発を選んだりする場合もある(パッケージで十分じゃん、て場合も多いですけど)。
そういった、ビジネス上の構造を見ていけば、「 IT業界の人月商売、多重下請けがもたらす45の害毒」なんて語るのって、木を見て森を見ずじゃあないかな、と思うわけですよ。問題はそんな局所的な部分じゃないだろと。
短くするつもりが結局4000字近くまで書いてしまった。。。
反省。
以上