IT関連メディア亡国論
過去2回に渡り、SI亡国論と言いつつ、適切な問題設定を行っておらず論理展開に問題があることを指摘しました。
システムは「人間」が使うということを甘く見るべからず - プロマネブログ
元の記事は4回に分かれてますが、そろそろ書くのも飽きてきたので最後の指摘を書いておこうかと。
今回の記事は過去分の記事とほとんど重複しているので、4回目だけに記載されている内容についてだけ突っ込んでおきます。
※正直、重複だらけの文章なので4回に分けたのって意味があるのかと思うぐらい水増しした文章なのですが。。。いいのか。
「マーケティングができないITベンダ」という言葉に見るビジネスの理解度
「後追い」から「御用聞き」への転換
・・・
マーケティング能力の無い日本のITベンダー
・・・
マーケティングができないITベンダーが
過去2回の指摘でも思ったのですが、この人は本当に日経の記者なのだろうか。
あまりにもビジネスモデルを理解してなさすぎる。
(1) 一般消費者向けの商品・サービスを主に販売するB2C(Business to Customer)モデル
(2) 他の企業・組織向けの商品・サービスを主に販売するB2B(Business to Business)モデル(a) 需要の予測にもとづいて、商品・サービスをあらかじめ用意しておく見込型ビジネス
(b) 個別の注文を受けてから、商品・サービスを提供する受注型ビジネス
佐藤さんの過去のエントリで丁度説明したいことが記載されている物がありましたので、参考まで。
SIer、要は「B2Bでシステムの受託開発する企業」をベースに言ってしまえば、これらの企業群のビジネスは「受託」という言葉に代表されるように、顧客需要がありきの商売となってます。
つまり、マーケティングと言う概念が存在しないわけですね。だって、幅広い市場(マーケット)からお客をかき集めるのではなく、目の前のお客さんの需要を掘り起こして仕事を増やす、というビジネス原理で動いているから。
こういった業界で必要なのは、マーケティングではないです。
元記事の御仁自ら書いているように、「御用聞き」言い換えれば「コンサルティング」なんですね。
だから、1990年~2010年ぐらいまでの間、SIerにもコンサルティング機能を強化しなければならないってことで、SIとコンサルティングファームの合併が行われたわけですね。
- 1988 NRIとNCC(野村コンピュータシステム)の合併
- 1989 DIRとDCC(大和コンピュータサービス)、DSS(大和システムサービス)の合併
- 2007 アビームとアビームシステムエンジニアリングと合併
- 2010 日本IBMとIBCSの合併
適当に列挙しましたが。
てなわけで、「マーケティングができないITベンダー」なんて言った瞬間、ITベンダーのビジネスモデルを理解してないことを露呈することとなるわけです。
多重下請け構造破壊が確実な中小ベンダの利益となるのか?
中堅中小のITベンダーには、もっとチャンスがある。ようやく多重下請け構造から抜け出す絶好の機会が訪れたからだ。同業のITベンダーやユーザー企業のIT部門に営業するのではなく、ITを活用した新サービスの立ち上げを目指すユーザー企業の事業部門にスピード開発を提案してみるとよい。
なるほど。これが実現すれば素晴らしい。
でもね、自分で書いてますよ。
下請けや孫請けなどの受託ソフトウエア開発会社は、メインフレーム時代から変わらぬビジネスモデルだ。と言うか、ビジネスモデルと呼べるほど特別なことをしているわけではない。経営者らの属人的なツテを辿ってソフト開発を請け負い、必要に応じてその一部を外注に出す。このようにして多重下請けの連鎖を作り出してきた。
この点については一部同意できる部分があります。
特に、中小のソフトウェア開発会社は、所謂元請けと呼ばれるSIerと比較し、営業力が弱く、適切な契約形態を定義するためのビジネスモデリングに弱い場面をしばし見かけます。
例えば、以前指摘したこんな記事
「価値創造契約」は対価の設定が問題では無いだろうか - プロマネブログ
こういうビジネスモデル化を行うのも一種のコンサルティングや営業力になるわけですが、こういった機能が弱いなーと感じる場面がしばしあります。
さて、このような状況下で御仁が語るよう、多重下請構造がなくなればどうなるか。
とまあ、このような形で、米国における多重請負構造は、オフショアの台頭により中小ベンダにダメージを与える形で縮小したと考えられます。
アメリカの事例を見れば明らかです。10年近く前に出版された「MY JOB WENT TO INDIA」を見れば、SIerやWEB系企業など、ありとあらゆる企業でプログラマがインドオフショアに置き換えられた事実があります。結果、中小ベンダが壊滅的な状況になったりしました。
個人的な試算ですが、おそらく多重下請け構造が解消されると同時に、日本のIT投資がおおよそ1.5~3倍程度に膨らまなければ、大量のエンジニア失業者を生むんじゃないかなと予想してます。
9割減ると言っても、それだけのITベンダーが全て消えると言っているわけではない。
残存者利益を狙った規模拡大のためのM&A(合併・買収)もあるだろうし、別のビジネスモデルに転換するITベンダーも出てくるはずだからである。
消えない理由が甘すぎる。全てがサプライサイドの事情ばかり。それで解決できるのなら苦労はしません。もうとっくの昔に解決してます。人間を窮地に追い込めば、勝手になんとかなると思っているのかね。ただのネオリベですか。
それこそマーケティングできちんと分析したほうが良いんじゃないかな。
普段、「アメリカが~」って出羽守ぶりを発揮しているのであれば、アメリカで起きた事情が日本でおきるぞ、って語ったほうがいいんじゃないか。
都合がわるいことだけ目をつぶるのは如何かと思います。
まとめ
毎度のごとく長くなってしまいました。
色々書いていて思ったのですが、もしかしたらこの御仁、煽りとか抜きで本気で「SI亡国論」を信じているのかもしれないと思いました。
ただ、本記事を含む3回の指摘を行ったように、見ている内容があまりにも表層的なものだから、的はずれな結論だけが積み上がってます。
それこそ、安易な論理展開でSIerだけでなく、ITエンジニアの不利益にもつながるような。
悪いことを悪いという批判、問題提起は必要だと思います。IT関連メディアとしてそういうスタンスをとっても良い。ただ、問題提起を行うのであればきちんとした分析と理解は必要だと思います。
でなければ、まさに「地獄への道は善意で舗装されている」って言った感じで、ただただ問題を振りまくだけの存在となるでしょう。
まさに、IT関連メディア亡国論です。
以上
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