プロマネブログ

とあるSIerでプロマネやっているオッサンです。主にシステム開発ネタや仕事ネタ、気になった三面記事ネタの解説なんかしてたりします。

ITエンジニア地位向上のためにも、求められるは正しい業界分析

 

ITエンジニアの地位を落とす、日本企業の大きな誤解:日経ビジネスオンライン

googleの利益率がよい理由になっても、ibmの利益率がよい理由を答えられてないよ。もうちょっと深い分析しなきゃ。

 

まあ、いつものSIer Disなわけですが、ちょっとだけ論点整理しておきますか。。。

 

だから、日本のIT業界構造は独自じゃないって。。。

米国におけるソフトウエアの開発は、ソフトウエアを利用するユーザー企業自らで開発することが多い。日本に比べユーザー企業内のITエンジニア比率が圧倒的に高い事実を見ると、この「ITゼネコン」構造は日本独特のものであることが分かる。 

 

日本のIT業界を「SIガラパゴス」と言う前に知っておきたい海外ベンダ事情 - プロマネブログ

上記記事で、諸外国含めてきちんとベンダ事情を整理すれば、日本と同じような業界構造は多数の国で見られる事象です。日本独自なんてとんでもない。

  

ITユーザ企業は、戦略策定の観点に重きを置くようになり、ベンダが実装の役割を担う傾向を推し進めている

 

P.19 米国 [仕様決定へのベンダ企業のかかわり具合]

IPA 独立行政法人 情報処理推進機構:IT人材育成事業:IT人材白書

 

米国においても、「System Integrators」あるいは「SI’ers」は、米国市場にも存在する。大規模ITベンダであるIBMとHP/EDSには、システムインテグレータ部門があり、サードパーティのソフトウェアベンダとハードウェアベンダからなるシステムをインテグレーションし、維持管理する。大規模なシステムインテグレータには、AccentureCSC、Capgemini、Lockheed Martin、SAICなどがある。

 

P.19 米国 [SIerという役割]

IPA 独立行政法人 情報処理推進機構:IT人材育成事業:IT人材白書

 

パッケージのほうが利益率がよくベンダ的には嬉しい

人貸しモデルのSIerからすると、パッケージを導入するだけのプロジェクトは安く済んでしまい儲からないということだ。その結果オーダーメードのシステム提案が主流になり、大量の人を投入し、労働集約型が加速するという負のスパイラルになってしまうのである。 

 SIerの提案段階のビジネスを実行する立場から言うと、パッケージのほうがオイシイです。ここでSIerを製造業的と言われているので、製造業より言葉を借りると「スマイルカーブ戦略」が使えるから。

なので、スクラッチ開発よりもリスクが少なく、利益確保も容易なパッケージでやりたいってのがベンダのオッサンの本音だったりするわけですが、ユーザの要件に合わずにスクラッチとなる事もままある話で。

オーダーメードシステム提案が主流?そりゃユーザのニーズがそこにあるからですがな。

そういった意味では、ホリエモンの方がココらへんの事情を正確に把握しているのには、さすがって感じですね。

 

多くの会社がなぜカスタマイズしようとするのか僕には意味が分かりません。

「世界が変わらないのはエンジニアのせいでもある」堀江貴文氏がフリーエンジニアに向けて放つ5つの提言 - エンジニアtype

 

でもまあ、ノンカスタマイズでパッケージが使える事例も限定的なので、カスタマイズしないことに拘るとかえって使い勝手が悪くなるので一概に言えないんですけどね。。。

 

 ちなみに、これまた「グローバル化を支えるIT人材確保・育成施策に関する調査」をきちんと読み込みますと、アメリカでもパッケージの適応比率は大体25%程度で大多数はスクラッチ開発。日本が13%程度であることを考えれば、正直、10%程度の差異で日米のIT業界に大幅な差異があるような書き方は疑問です。

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IPA 独立行政法人 情報処理推進機構:IT人材育成事業:IT人材白書

 

で、IBMAccentureの利益率が高い理由は?

SIerではいまだに製造業と同じようにとらえ、設計と製造を無理やり分離している。ITに対する理解度の低さに驚きを禁じ得ない。ちなみに、マイクロソフトもグーグルもアーキテクトは自らプログラムを書くのが当たり前である。

これまた、ステレオタイプなSIerへの理解度の低さに驚きを禁じ得ないわけですが。。。ウチも元請けだけど、元請けSIerがアーキテクトの設計するわい。

 

まあ、それはさておき、またまた海外の事例です。

多くのクライアント(ITユーザ)、特に金融サービスなどの先端のITユーザは、IBMAccentureなどに、ITシステムの設計を依頼し、インドのIT企業が、その下でサービスを提供することが多い。

 

P.125 インド ②ユーザーITシステム仕様決定へのベンダ企業のかかわり具合

IPA 独立行政法人 情報処理推進機構:IT人材育成事業:IT人材白書

ここまで散々「日本のSIerは利益率が低いのは設計と開発を分ける製造業型」という切り口で語られていたわけですが、上記の通り、実情としてアメリカでも「ユーザ企業の外注、本国での設計とオフショアでの開発の分離」はあるわけで、かつ「IBMが売上高8.4兆円、営業利益率19.6%、Accentureが売上高2.4兆円、営業利益率13.0%と高い」わけです。

 

これをどう見るか。

 

まあ、徹底したプロジェクトマネジメント、日本なんか目じゃない厳格なウォーターフォール開発など、アメリカが利益を上げるために工夫している様々な要因があることが確かです。ここでは割愛しますが。。。

重要な事は、「日本のSIerは利益率が低いのは設計と開発を分ける製造業型」という前提は間違いってことです。アメリカを見れば、きっちりと反例が示されています。

 

 

まとめ

まあ、正直なこと言うと、全体的には「ウェブサービス」を中心としたIT企業に関して言えば、あながち間違いな話ではないとは思ってます。そういった視点であれば、うなずける部分もあります。

 

ただ、実際は「SIer」の仕事は、ウェブサービス化できるシステムだけを相手にしているわけではないです。元記事は、無理矢理SIerに適用しようとしたため、色々穴が目立つロジックとなってます。

 

また、元記事では「IPA 独立行政法人 情報処理推進機構:IT人材育成事業:IT人材白書」の内容を頻繁に引用してますが、引用箇所が自説の補強のための部分的な形になってます。これは正直良くない。

オッサンも同じ資料から元記事の反証を引用しているように、きちんと読みこめば元記事のようなステレオタイプな内容は到底導けないわけで。。。

 

日本のIT業界の問題点として、「ITエンジニアの地位の向上」を目指したいのであれば、正しい分析を行うことが必要かな。

SIerを日本ガラパゴスだ、アメリカとは違うなんてただDISっていても、きちんと道筋立てられた批判でなければいつまでたっても問題は解決しません。

 

正しい分析に基づく適切な戦略が、問題解決の鍵になると思います。

  

以上